残糸ソックスはなぜ2足1,000円なのか?

ものづくりとお金の話

最終更新日>2021/08/24
監修>平田はる香 文責>いしはら 写真>若菜紘之


わざわざのオリジナル商品として定番の「わざわざ残糸ソックス」。長野にある老舗靴下工場のタイコーさんの糸倉庫に残糸が山ほどあることを受け、なんとか活用できないかと考え抜いた結果生まれたプロダクトです。

先日、その残糸ソックスに「2足1,000円は高いのではないか」というお声を頂戴しました。

わざわざ残糸ソックス

たしかに近年では3足で1,000円の靴下が多く、100円均一ショップでも靴下は買えます。そのため世の中の相場からすると2足で1,000円は高いと感じやすくなっているかもしれません。なぜ2足1,000円にこだわったのか、実は疑問に思っている方が多くいらっしゃるのかもしれない。ひとつの質問から、大切なことに気付かせていただきました。

そこで残糸ソックスの値段について、Twitterの連続ツイートにて簡単に理由をご説明したものの、実は収まりきらなかった話が多々ありました。

パッケージにも背景を簡単に載せていますが、他にも伝えたいことがたくさんあります。

ものを買う側の皆さんに、もっと知ってほしいことがあります。今回はツイートでは書ききれなかったお金の話を中心に、買い手からはなかなか見えにくい「ものづくりの背景」をお伝えします。

国産で作ることに意義がある

企業がものづくりを考えた時に、できるだけユーザーに安価に届けたいという考え方から、労働力の安い発展途上国に工場を作り生産するという構造がありました。

日本でも高度経済成長時代に海外で生産し、国内で安く販売するということを繰り返し行ってきましたが、そういったことも一つの背景となり、現在、国内で生産する工場が激減し技術の継承が行われないという問題も出ています。

わざわざでは、そういった背景を深く考え、国内工場と協力して生産する構造を作るということを意識的に行ってきています。

 

タイコーさんの工場

あらゆる機械を利用しながら、職人さんたちが手をかけて作り上げていきます。

今回はタイコーさんが山ほど持っている残糸で作るということで、靴下は消耗品であるという点も踏まえ「国産でありながらも、できるだけ安い価格にしたい」という思いをもって商品開発にあたりました。

タイコー
1949年の創業。製糸業がさかんだった長野県で約70年にわたって靴下を中心にニット関連商品の企画開発・製造を手掛けてきました。繊維産業の最先端であるイタリア製の編み機を先駆けて導入し、長く愛される新製品を生み出しています。

残糸は「余り物」だけど、ちゃんと値段はある

タイコーさんは靴下を作るために、材料となる糸を糸業者から購入して調達します。その際、生産予定の靴下がちょうど作れる分の糸を買うのが理想的ではありますが、生産過程での都合上、糸を多めに用意する必要があります。この「多めに購入した分」が後に残糸となります。

タイコーさんの「糸倉庫」。相当な量の糸が保管されています。

「フェアトレード」という言葉があります。直訳すると「公正・公平な取引」という意味です。

例えばコーヒーやチョコレートの原材料を、開発途上国などで生産されたものを安く買い叩くと、安価に商品を製造できます。それは商品の作り手や消費者にとって喜ばしいことかもしれません。しかし、原材料の生産者の労働環境が悪くなって健康が守られなかったり、生産効率を重視するあまりに農薬を多用、環境にも悪影響をもたらしてしまったりと、様々な事態を引き起こす原因となっていました。

そこで注目されるようになってきたのが「フェアトレード」です。

<フェアトレードとは>
開発途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することにより、立場の弱い開発途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す「貿易のしくみ」をいいます。
フェアトレード ジャパン『フェアトレードミニ講座』より引用

どんな商品にも、商品を作るためにコストが生じます。残糸ソックスのものづくりも「フェアトレード」の考え方を持っています。残糸は余り物ではありますが不良品ではありません。タイコーさんには残糸も材料費として生産コストに計上していただいています。

タイコー×わざわざ、工夫しました

「残糸を使って靴下を作る」というと、糸だけ残糸に代えれば簡単に取り組めそうな雰囲気がありますが、話は単純ではありません。

残糸には、ありとあらゆる種類の糸があります。ウールなどの高級糸、ポリエステル、コットン。ウール×ポリエステルといった混紡タイプも含まれます。素材だけでも多種多様なところ、色も様々にあります。さらに、すべての残糸で同じ量が残っているわけではありません。糸によって、使える量もまちまちです。

工場で商品を作る際は基本的に、決められた材料で、いつも同じ工程で、商品を作っていきます。ところが、残糸を使うとなると材料が変動することになります。現場で色組みを調整するのは工場にとって大きな負荷となります。

そこで、わざわざが残糸の組み合わせを指定することにしました。タイコーさんには「残糸リスト」を作成してもらい、色見本をわざわざに送っていただきました。リスト上の情報と、色見本と色名を照らし合わせながら、何足分作れるかも考慮しながら組み合わせを決めていきます。

わざわざで取り扱う商品はベーシックな色合いのものが多いですが、残糸ソックスは別です。せっかく残糸がカラフルなので、様々な組み合わせにトライしています。残糸を機械的に組み合わせていくとファッション面で使いにくい配色のものが出てきてしまうところを、ここは人の手をかけて、想像力を働かせながら色組みを決定していきます。

ちなみに残糸シリーズ第2弾・わざわざザンシンバッグは、残糸ソックス以上に糸の指定に手間がかかっています。というのも「残糸リスト」が使えず、タイコーさんに出向いて一日がかりで糸の指定をするためです。このお話はまたいつか。

わざわざザンシンバッグ

さて、タイコーさんの工場には、靴下を編み上げるための機械がずらりと並んでいます。全部が全部同じ機械というわけではなく、古いものから最新型まで何種類もあり、それぞれに違う編み方ができるようになっています。

残糸ソックスの生産初期は「比較的空いている機械」を選びました。大手メーカー向けの大量生産などをしている合間で、少しずつ作ります。

通常、タイコーさんのような大きな工場では小ロットのものづくりはしにくいところですが、空いている機械の有効活用につながることから、生産を引き受けてくださった経緯があります。納期を厳密に指定しなかったことも工夫のひとつです。

最近はおかげさまで残糸ソックスの売れ行きが好調で、生産数を増やしており小ロットではなくなってきました。まとまった量なので納期も大体ではありますが設定しています。

タイコーさんとわざわざはコミュニケーションを何度も積み重ね、このような商品開発をしやすい関係性ができてきました。どちらかに負荷がかかりすぎると、ものづくりの継続は難しくなります。お互いに無理をしない工夫があって、ノウハウを持ち寄って努力しているからこそ、2足1,000円の残糸ソックスが出来上がっています。

作り手側が少し折れてでも1,000円にしたかった

1,000円にしたい、というのは当初からの強いこだわりでした。キリのいい価格でお得に買える靴下が欲しかったのです。消耗品だけどいいもので、それなりのもの。残糸という特性上、オンラインストアでの販売時は色を選べない仕様なので2個アソートにすることで楽しんでもらいたいという思いがありました。

配色をわざわざ側で時間をかけて決めたり、パッケージデザインを詩人のウチダゴウさんに依頼してかわいいデザインに仕上げたりと細かい部分にはお金をかけてこだわりました。

一方で、タイコーさんの生産面での数々の工夫があったり、パッケージ用の印刷は長野県松本市にある「藤原印刷」さんの残紙を利用したりと、できる限りのコストダウンを図っています。

わざわざではオリジナルのものづくりをする際も、既製品を仕入れて販売する際も一貫して「生産者・わざわざ・お客様」に無理のない価格のものをお届けするようにしています。

ただ残糸ソックスについては、工場にあふれる残糸について知っていただきたくて、そしてこの取り組みを広く伝えたいという思いから、特別にこのような価格設定となりました。

ものづくりを続けるには、適正な利益が必要

ひとつの商品がお客様の手元に届くまでの間には、様々な人の手を通しています。商品を作るために、売るために、誰かが手をかけるときには人件費が生じます。材料費だけではなく、人件費をはじめ様々なコストと欲しい利益を上乗せしたのが「販売価格」です。

ここで、わざわざオリジナル商品がどのような価格設定をしているのか、「販売価格=10,000円」と仮定して、その内訳をご紹介します。

基本的な考え方としては、製造原価が33%になるように販売価格を設定しています。製造原価は生産者さんにお渡しして、残った67%の中から人件費や販管費などを支払います。最終的にわざわざの純粋な利益として残る分は5%程度です。

また、オリジナル商品を小売店に卸販売する際は65%の価格で販売しています。その場合は、卸先の小売店に35%、わざわざに65%のお金が手元に入り、その中から販売等にかかるコストを拠出します。いずれの場合でも、利益になるお金はわずかです。

残糸ソックスは、タイコーさん・藤原印刷さんにお支払いする製造原価が合計490円で通常のわざわざオリジナルの製造原価(33%)を大きく超えています。これでも本来タイコーさんにお渡しすべき分よりは少ないですし、わざわざに入る分も減っていますし、卸価格も値上げしたため卸先に入るお金も減ります。それでも、残糸ソックスは特別なのでこの内訳で製品化に至りました。

ちなみに、製造原価33%はあまり一般的ではないかもしれません。わざわざではセールをしないからこそできる設定です。もしセールが恒例行事のお店で製造原価が3割となると、セール価格にした途端、お店の手元に入るお金が0に近くなるか赤字になってしまうと思います。

セールで値下げをしたり、セールを見越して無理に安価なものづくりをすることは、お客様からは買いやすくなって喜ばれる一方で、販売店舗や生産者に渡るお金が少なくなることを意味します。

「丸編み機」という機械を使って、残糸ソックスを編んでいきます。

機械で編むとはいえ、糸をかけたりする工程では人の手が必要です。

商品を作って売って受け取っているお金は、販売店や生産工場に勤めている人たちのお給料となります。安さばかりを求めて、安いものしか買わないようにする行動の先にあるのは厳しい価格競争です。まっとうな価格でものづくりをして、商品を届けている生産者や販売店舗から潰れてしまって、誰かの雇用がなくなります。

大げさに聞こえるかもしれませんが、目の前の商品ひとつに様々な人の生活が乗っています。きちんとした品質のものづくりを続けるためには、適正な利益が生産者や販売店舗に入ることが必要不可欠です。

誰にお金を渡したいのか

”私のがんばりを誰にあげたいのか考えるようになったことで、私の買い物へのスタンスは大きく変化していきました。何が欲しいか、何が得なのかという考え方ではなく、自分に必要なものとそのモノに費やされている思いや、モノを買うことによってそのお金が誰の元へ行くのかということを対価に置くことで、お金の使い方が変わっていきました。”
  
(わざわざnote「モノ買う人々、モノ売る人々」より)

毎回のお買い物で買うことの意味を考えはじめると大変なので、まずはこの話を思い出したときだけでも、誰にお金を渡したいかを考えてみてほしいです。このお店には、この生産者さんには自分のお金を渡して応援したい。そんな思いでお買い物をする人が増えると、社会はきっと良くなっていくと考えています。


残糸ソックスはなぜ2足1,000円なのか?