大橋保隆

大橋保隆(鎚起銅器)

一枚の銅を、器にする。

最終更新日>2022/02/23
文責>ムラヤマ 写真>若菜紘之


新潟県燕市の鎚起銅器職人
大橋保隆(オオハシ ヤスタカ)

鎚起銅器職人 大橋保隆

新潟県燕市にて、一枚の平らな銅板を金鎚で打ち起こし形を作る”鎚起銅器”職人の大橋保隆さん。江戸時代から伝わるその技は新潟県燕市で約200年の歴史を誇ります。大橋さんの父も鎚起職人で、その鎚起銅器の伝統技術を200年に渡って継承する老舗企業”玉川堂"の六代目工場長でもありました。

その父の姿を見て育った原体験が、全てを手作業で打ち上げていく大橋さんの昔ながらの技法のこだわりにつながっています。現在はその技法を体験できるワークショップなどを開催しながら、想像力を育んでもらえる、自分で作り上げた道具への感情を知ってもらえるような活動も行なっています。作品の細部の細部まで打ち起こしたなめらかな手触りと鎚の表情を味わってみてください。

大橋保隆 プロフィール
昭和50年7月17日生まれ。父 正明さんの背中を見て育ち、保育園の頃からの夢は「父と同じ職人になること」。

10年の鎚起銅器修行期間を終え独立。平成19年より独自の製作を進め、生活道具である事を大切に、多くの魅力的な作品をつくりだしている。近年は、その技術を伝えるワークショップを開催するなど作品を製作する以外にも活躍の場を広げ、鎚起銅器の魅力を伝えている。

鎚起銅器(ついきどうき)

漆カップ 大橋保隆

鎚起銅器(ついきどうき)とは、一枚の銅の板を金鎚で叩き起こして器に仕上げていくもの。一枚の真っ平な銅を切り出すところから作業が始まり、叩いてはバーナーなどで焼き鈍し柔らかくしてまた叩くを繰り返して形にします。銅板を伸ばしていく製法ゆえに、鎚起銅器は材料をできるだけ無駄なく使えるような作りかたになっていると大橋さんは言います。

また大きな金鎚で叩いて成形をした後に、差が出た厚みを叩いて整えていく「均し」という作業を経て完成していく大橋さんの鎚起銅器は、飲み口が薄く口当たりがよいのも一つの特徴です。

ひと打ちひと打ちから生まれる
銅のカップ

漆カップ 大橋保隆

写真は鎚起銅器 カップ 銅

金鎚のひと打ちひと打ちから生まれる凸凹のある表情と、均しの工程を経て生まれる滑らかな手触り、美しい艶を宿す銅のカップ。細やかな工程を幾度も重ねて作られた美しい作品ですが、ぜひ日常の中で使い込んでほしいカップです。使い込むほどに味わい深く経年変化していき、また使う人の日常に溶け込み、愛着のあるカップに育っていきます。

銅は熱伝導率が良く、注いだ飲み物の冷たさや温かさがそのままうつわにも伝わり、冷たいものはそのまま冷たく、温かいものはそのまま温かく味わうことができます。

漆カップ 大橋保隆

内側には錫をひいている作品もあります。これは銅に表れる緑青が毒だと言われていた時代に、食品が触れる部分には錫鍍金か銀鍍金をひいてくださいとの指導があったそうで、その名残が今でも残っているとのこと。錫鍍金には「電気鍍金」と「手での鍍金」があり、大橋さんの作品は、手で錫鍍金をしています。どちらの方法にも良さがあり、大橋さんは手鍍金のほうがびっちりと銅の表面を覆うことがなく、銅の成分が出てきやすいと考えてこの方法を用いています。

作品それぞれが有する美しさを、日常使いでさらに育ててみてください。

漆カップ 大橋保隆

実店舗「問tou」で使用している湯釜やお会計時に使用する受け皿も、大橋さんの作品です。