わざわざ傑作選 パン屋の塩梅

パン屋の塩梅

わざわざ傑作選

最終更新日>2021/11/05

文責・イラスト>平田はる香 写真>若菜紘之
編集>鈴木誠史


あんばいという言葉は至極曖昧で、至極難しい。きのう作業中、スタッフに「塩梅というやつだよ。」という話をした。ちょうどいい塩梅でやるようにという指示で、ちょうどいい塩梅になったら、熟練した職人なのかもしれません。

パンや料理の話です。

出荷や在庫管理、勤怠管理、経理などの業務には、塩梅という加減の話は殆どありません。決められたルールを如何に計画的に正確に効率的にこなすかという仕事になり、どちらかというと思考のルーティーンです。しかし、料理やパンの製造はそうはいきません。

わざわざ代表 平田はる香が開業時より毎日綴ってきた膨大な文章のアーカイブから、厳選して再掲載する『わざわざ傑作選』。この投稿は2016年11月のSNS投稿の再編集版です。

経験という
曖昧なものの強さ

わざわざ傑作選 パン屋の塩梅

ある程度決められたことがあるとしても、条件が日によって変化していくので、勘や経験に左右される部分のウエイトがどうしても高くなります。野菜や肉、素材の味は日々違ってきますし、気温によって発酵も変化して、微妙なさじ加減を振るうのは、人の腕、即ち塩梅となるわけです。

そのさじ加減、即ち、塩梅を決めるのは何だと思いますか?

それは、経験の上に培われた感覚です。8年間という短い間ですが、パン屋をやってきて感じてるのは、経験という曖昧なものの強さです。“手に取るようにわかる”と言いますが、年々、毎日同じことをやっているのに感じ方が変わっています。

パンの生地を見ると状態がわかり、窯の温度を全身で感じ、焼いたパンを見るだけでどのように焼かれたか、発酵はどうだったのかがある程度わかります。だから、自分の焼きたいイメージに近づけるためにはどうしたらいいのかがわかる。

どうしたらいいかよくわかるから、また翌日、焼けるんです。だけど、思い通りにいくことはまだまだ少ないです。次こそは、次は必ずと、挑戦しそのサイクルを楽しんでるうちにあっという間に1週間が終わります。

感覚は経験でしか養えない

データを8年間取り続けています。分析していく中で、大体の正解が見えてきましたが、その通りにできる人はほとんどいません。それは、作業に熟練が必要で、経験が必要だからです。結果がわかっていても、感覚は経験でしか養えない。

改めて、厨房に立つ喜びを感じています。経験という紛れもない事実がパンや料理の味を左右するならば、生涯現役でやるのもいいかもしれないなぁと思いました。だけど、今週焼きまくって身体は疲れました。なかなか生涯現役でいる健康体を作るのも難しい。年を超えられるならば、本当に嬉しいけどそうもいかないから、やっぱり誰かに受け渡したいとも思うこの頃であります。

わざわざ傑作選 パン屋の塩梅
【編注】現在わざわざのパン・お菓子製造は、パンづくり部スタッフへと引き継がれています。引き継いだスタッフたちはその後データの取り方の改善に加え、水分調整・発酵管理・焼成と各工程において工夫を重ねることで、パンやシュトレンなどを継続して安定した品質でお届けしていけるよう取り組んでいます。

例えば、薪窯で1度に60本、週に400本以上焼くシュトレンも、1本ずつ窯の中に入れて焼いています。一度に60本を焼くためには、円形である窯の中で1本ずつきれいに並べていかなければなりませんが、こうすることで隣同士くっつかずに済み、ロスを減らすことにもつながります。単純作業のように見える作業も、様々な方法を経て効率よく進むこのやりかたにたどり着きました。

変わらないおいしさをお届けするために、このように技術も高めていく必要があります。パンづくり部のデータと工夫と経験の塩梅で作るわざわざのパンやお菓子シュトレンをぜひお試しください。

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